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最高裁判所第二小法廷 昭和30年(あ)1038号 判決 1958年5月02日

本籍

広島県双三郡十日市町九八二番地の二

住居

東京都大田区新井宿四の九四五番地

防衛庁職員

常光昭

大正九年三月一六日生

右の者に対する道路交通取締法違反被告事件について昭和三〇年二月二八日東京高等裁判所の言渡した判決に対し被告人から上告の申立および上告受理申立があつたので当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

当審における訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

弁護人木内五助の上告受理申立理由(第一点)について。

論旨は、昭和二八年法律第一七二号(刑訴法の一部改正法)附則八項但書後段の「新法施行前すでに被告人に対し略式命令の謄本が送達された事件については、この限りではない。」との規定は、右法律公布の日からその施行の日までの間に略式命令の請求があつた事件のみについて適用され、本件のように、右法律公布前に略式命令の請求があり、しかもその謄本が右法律施行前ではあるが右請求の日より四ケ月以上経過した後に被告人に送達された事件については適用がないものと解すべきであると主張する。しかし、右法律附則八項本文冒頭の「前項前段の事件で」とは、「新法施行前すでに略式命令の請求があつた事件で」の意味であることは、同附則七項との対照上明白であり、また、右「前項前段の事件で」の文言が右八項の本文のみでなく同項但書にも及ぶものであることは同条項の解釈上疑問の余地がない。従つて、右八項但書後段は、「新法施行前すでに略式命令の請求があつた事件で、新法施行前すでに被告人に対し略式命令の謄本が送達された事件については、この限りでない。」との文意である。そして、右にいう「新法施行前」とは、いやしくも新法施行前であればその公布の前後を問はない意味であつて、これを、所論のように、新法公布後その施行前の意味に狭く解釈すべき何らの理由がない。それ故、原判決が、右附則八項但書後段の定めるところにより本件公訴提起はさかのぼつて失効したものでないと判示したのは正当である。論旨は理由がない。

同弁護人上告趣意(二通)について。

論旨は、事実誤認、審理不尽、単なる法令違反(この点については前示説明参照)の主張であつて、刑訴四〇五条の上告理由にあたらない。

被告本人の上告趣意は事実誤認の主張を出でないものであつて同四〇五条の上告理由に当らない。

また、記録を調べても同四一一条を適用すべきものとは認められない。

よつて同四〇八条、一八一条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 河村大助 裁判官 奥野健一)

被告人 常光昭

弁護人木内五助の上告受理申立理由(第一点)

前審判決はその理由の前段に於て昭和二十八年法律第一七二号は公布後九〇日を経過して施行され当該略式命令の謄本は右施行前に被告人に送達されたから同附則第八項但書により公訴の効力は存続すると判示している、同法の施行期日に関してはその通りであるが附則第八項但書を理由として公訴の効力が失はれないとなすは注意を正当に把握したものということはできない、この種略式命令事件については法律第一七二号の公布と施行とにより次の三つの場合を生じたということができる。(1)は新法公布前その請求があつた場合。(2)新法公布後施行前その請求があつた場合。(3)新法施行後その請求があつた場合即ち之れである問題は前記但書該当の場合は(1)と(2)を併せ含むや控訴判決は之を肯定するものと認められる、又は(1)の場合を含まず解するやであるが若し(1)の場合を含むとすれば二年も三年も以前の事件でもなほ施行前謄本送達により効力を復活乃至存続せしめることができるといはねばならない、豈かゝる不合理が条理からしても許容せらるべき余地あらんや、判旨はかゝる不合理をも認容せんとするものであらうか、蓋し新法の公布によりこの種事件に関しては前記の通り法律上の客観状態に異変を生じたるは免かれない、この異変に対処して実情に即応した措置がとられねばならないことは当然でありかくて新法公布後に於て請求ありたるものは送達が施行前になされたものに限り二ケ月を経過していても公訴の効力を保持せしめんとするのが但書の趣旨であり本文を単に言ひ替いたるにすぎず通例の用語例とは稍用法を異にするのである、かくて右但書は前記(2)の場合にのみ妥当するとなすべきは明白である、然り而して条理論上にとゞまらず附則第三、第七、及び第八の各条項を綜合した附則法文全体の趣旨よりしても同様の結論に到達するは言を要しない、判旨は徒らに用語の末節にこだわつて前記の重大な錯誤に陥つたものと批判されることを甘受せねばなるまい。 以上

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